最高裁判所第三小法廷 昭和27年(オ)287号 判決 1953年12月15日
東京都北多摩郡神代村下仙川字北野八七五番地
上告人
西本九郎
右訴訟代理人弁護士
成瀬芳之助
神谷安民
同都同郡同村金子
被上告人
神代村農業委員会
右代表者会長
原島鋭太郎
右当事者間の農地耕作権確認請求事件について、東京高等裁判所が昭和二七年三月一九日言渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人成瀬芳之助、同神谷安民の上告理由第一点及び第二点について。
(第一点について)被上告人(当時神代村農地委員会)が、本件土地について上告人に対し昭和二五年二月二二日離作を要求して来たことは当事者間に争いのないところであるが、原判決の認定するところによれば、この離作の要求は被上告人が単に農地の売渡を円滑に行うための法律的効果を生じない事実行為として上告人に勧告したに過ぎないというのである。してみれば原判決が右離作の要求をもつて行政処分ないしこれに準ずる行政行為に当らないと判断したことは正当であつて論旨は理由がない。(第二点について)また原判決は被上告人の右離作の要求をもつて事実上の行為であるから無効確認の対象とならないと判示したのであつて、これを行政処分と解した上で、無効の行為と判示した趣旨でないことは明らかである。従つて原判決にはなんら所論のような違法はなく、論旨は理由がない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 井上登 裁判官 島保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)
昭和二七年(オ)第二八七号
上告人 西本九郎
被上告人 神代村農業委員会
上告代理人成瀬芳之助、同神谷安民の上告理由
第一点
原判決は本件離作の要求は「農地の売渡しを円滑に行うための事実行為として勧告したに過きないのであつて、即ち法律的効果を生しない行政庁の事実行為てあるから、行政処分ないし之に準する行政行為と云うことはできない……から取消し若くは無効確認の対象とならないと判示して居る処であるか、
離作の要求は上告人に耕作権が存しないと云う断定の意思表示含むそれ以上に一歩進んた更に耕地を明渡せとの強い内容の意思を表示し来た。然も行政処分の形式で一定の関係委員会の決定に基き為されたものであることが乙一号証の二により明である。然も又上告人はかゝる被上告人よりの右行為を受け、現在は安心して農業に従事することができない。之が為め物質的、精神的大きな損害を被りつゝ居るのである。即ち明白に権利を害されて居るのである。
かゝる被害者は行政処分乃至行政処分に準する行為として之が取消を求めたるものであるとは当然である。
他面上告人が右離作の要求をそのまゝ容れて耕作を被上告人に明け渡したら(他にはかゝる場合、愚な農民としては多々あり得る)離作要求は何人から見ても立派な完全無欠の行政行為の結果と云い、之が更に現状回復を肯定しないであろう。この角度から見ても本件は取消請求の対象となる行政処分と称し得るものと云うことが明となる。
原判決は真実に被上告人が云う様な不法耕作者なり国の代表権限ある他の行政官庁により訴訟によつて土地を明渡を求める外はないとの旨説示があるか、その様なことが国として為さるゝ途があるとしても権限のない被上告人の本件離作の要求が取消の対象とならぬとの理由にはならない。
斯様で原判決は離作要求の法律的判断を誤つた違法が存する。
第二点
原判決は本件離作の要求は自創法、農地調整法なとの法律に基く行為ではない。(被上告人も同様主張し居る)と認定しなから之が何れの法的根拠あるものであるのか明にしていない。
明にしていないのは法的根拠のない無権限、無効の離作要求である趣旨であるとするなら、上告人の請求の右離作要求の無効確認の判決を為すへきであつた。即ち無効な行政行為ある趣旨の如く認定しなから無効確認の対象とならぬとしたのは前述の如く形式的にも実質的にも現存する行政処分の法律的の解釈を誤つた違法の存し、ひいて法の適用を誤つた不法のものと云はさるを得ない。
何れにしても原判決は破毀さるへきものと信する。
以上